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さっきからずっと私と少女を見ていた深(こき)緋(あけ)色ローブの人物がゆっくりと裾を揺らしながら近づいてくる。
死の赤衣が近づくのを見てとるや、会議中ぼんやりと呆けていた少女が恐怖心を取り戻したのかわんわんと泣き始めた。
ローブから伸びた白くほっそりした手が少女に伸びたのを見て、少女をかばう形で思わず赤衣の前に歩み出てしまった。
「ちょっと待って。いったいこの子をどうするつもりなの?」
鮮血ローブは私の問いに答える代わりに、頭部をすっぽり覆っていたフード部分を下ろして顔を見せた。
大人達に威圧的な態度をとってみせた先ほどとは打って変わって、端正な顔にはいたずらっぽい笑みが浮かんでいる。
少女に向けていた手で私の頬をぺたぺたと触って呟いた。
「これはまた珍妙な輩が紛れ込んできたな。お前のような奴が来るのは数十年ぶりだぞ」
「今のはどういう意味なの? 私の他にも誰かがここにいるってこと? そもそもここはどこ? どうしてみんなファンタジーの平民が着てそうな古めかしい格好をしているの?」
すると意外なことに冷徹で大人びた印象の彼女の顔に困惑が浮かんだ。
「いやはや。ばあさんの昔話通りの受け答えだな。こういう場合はどう言うのだっけなあ」
赤衣の少女は思案するように宙を仰ぎ見て、何かを思い出したようで私を見た。
「ここはお前のようなよそ者が言う『夢の世界』とやらだ。詳しくは聞いてくれるな。私にだって分からないのだからな。確かに言えることは、数十年に一度珍妙な服装の輩が現れては我が一族に混乱をもたらしていくということだけなのさ」
「夢の世界ですって?」
ぼんやりとではあるが断片的に思い出した。
高校で部活を終えて帰った私は机に宿題の世界史のプリントの束を広げたのだ。
宿題を進めた記憶も、シャワーを浴びてベッドに入った記憶も無い。
つまり疲れて寝落ちしてしまったのだろう。
それにしても家での記憶がなんだか遠い昔のことのように思えてなんだか薄ら寒い。
どうにか思い出そうとしても、頭にもやがかかったようでもどかしいことこの上無い。
恐怖を誤魔化すために、私は目の前の深緋ローブに啖呵を切ることにした。
どうせ夢ならば怖いことなど何もないのだ
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