第一夜 子どもたちが屠殺ごっこをした話

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「珍妙珍妙ってあなたねえ。人を珍しい動物みたいに言わないで。それに私には鹿島燦(さん)というちゃんとした名前があるわ」  自分の姿を見てみた。  紺地で袖口に金色のボタンが三つ煌めく、学校指定のブレザー。  純白のブラウスに黒と緑が格子柄を織りなすキュロットスカート。  砂埃で白く汚れていいるが足元の黒いローファーだって本革製だ。  なにもおかしいところなんかない。  赤衣の少女がいかにもおかしそうに、はっと息を吐き捨てる。 「国中の道化師を探したってお前みたいな服の持ち主はいるまいよ。大体なんのつもりだ。その馬の尻尾みたいな髪型は。え? 鹿島燦さんよ」 「その呼び方はやめなさい」 「そうムキになるでない。ではカッシーよ申し遅れたな。我が名は舞だ。吊木野(つるぎの)舞(まい)。吊木野家は代々執行人をやっている。同時になぜだか貴様のように紛れ込んできた者を暇つぶしで相手してきたのだ。仕事の邪魔をしないというのであれば、食料と寝床の心配は不要だ」 「仕事って。そうよ! いったいこの子をどうするつもりなの?」 「無論、刑を“執行”するのさ。子どもの起こした事件とは言えども、罪は裁かれなくてはならないからな」   マイ――が平然と言ってのける。 「わざとじゃないもん! バルバラちゃんは大事なお友達だったのに!」  耳元からがらがらしたわめき声が聞こえたので、私は驚きつつ視線を右にやる。  泣き腫らして赤くなった目が私に必死に訴えてくる。 「いつもやってた遊びなの。お医者さんごっこや配達ごっこみたいに。でもこんなことなんて一回も無かったの」 「そういえばさっきも、ごっこ遊びがどうとかって大人達が言ってたわね。ねえ、何があったのかお姉ちゃんに話してくれないかな。何か少しでも力になってあげられるかもしれないわ。私の名前は鹿島燦。あなたは?」  私の問いにビルギットと名乗った少女はこくこくとうなずく。  そして痛ましい事件の経過をおおまかに、時折つっかえながらも丁寧に話してくれた。  こんな純真そうな子がわざと人を殺めるとは、とても考えられなかった。
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