第一夜 子どもたちが屠殺ごっこをした話

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「ほら、どう考えても事故に決まっているわ。ビルギットちゃんも反省しているじゃない。見逃してあげてよ。子ども相手なんだからせめて情状酌量とか無いの?」 「駄目だ」  マイの返事は簡潔でにべもない。 「誰かの犯した罪に対して誰かが裁かれなくてはならない。それがこの世界の法則なのだ」 「つまり、他の人が裁かれるならこの子は助かるわけね」  マイが目をまんまるにしている。  この冷血漢でもこんな顔をするのかと少し驚いた。 「だったらどうするつもりだ。お前が代わりに“執行”を受けるとでも言うのか」 「分からない。でもまだ三日の猶予はあるのよね。私、この子を助けたい」 「どうやらお前は大した道楽者らしいな。もしくは本物の馬鹿か。え? カッシーよ」  きっ、とマイを睨みつける。  自信はないけれど、会議中の彼女に感じたほんのわずかな違和感をぶつけてやるんだ。 「議員達の態度を見ていると、マイの一任ですぐにでも“執行”に移すこともできそうだった。でもマイはあえて大長老を待つと言ったわね。あなた本当は迷っていたんじゃないの? こんな子どもを死刑に処してもいいものか」  ぴくっと。  ほんの一瞬ではあるけれど。  マイは確かに眉をしかめた。  冷徹な瞳が動揺で揺れたのは気のせいだろうか。  直後、嗜虐の笑みを顔いっぱいに浮かべて笑い出す。 「まさか。こんな童女に“執行”する機会はそうあるものではないからな。ゆっくり時間を空けて、その間怯えるだけ怯えさせてやろうと考えたのさ。こちらとしてもどんな刑にするかじっくり考えて楽しみたいからな。さて、単に吊るすだけではつまらない。油で煮るのも趣がありそうだ。穴の空いた船に閉じ込めて海に送り出してもいいだろう」 「最低ね」  けらけらと無邪気に笑う不吉な執行人を、精いっぱい睨みつけてやった。 「とはいえ、三日間の猶予がある事は事実だ。カッシーの道楽の行方を見届けてやろう。その日まで我が家でゆるりと過ごすがよかろう。お前が望むなら疑惑の童女も連れて来い」
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