第一夜 子どもたちが屠殺ごっこをした話

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 マイの家は小高い丘に位置する、瀟洒で趣のあるレンガ作りの家だった。  眼下に広がる木製小屋や築何年とも知れぬ雨漏り必須のぼろい集落に比べると、かなり裕福な部類に入るのだろう。  おとぎ話の魔女が使いそうな深い鉄鍋の中。  山菜やぶつ切りにされた何かの肉塊がほどよく煮えている。  ハーブを思わせる香草が食欲を刺激し、私もビルギットも貪るようにスープを頂いた。   マイは陶器の瓶に入ったぶどう酒らしきものを勧めて来たが、丁重にお断りする。  少女の顔が上気し生気が戻ったのを見て、さっそく質問に入ることにした。 「ビルギットちゃん。よく聞いてね。私はあなたを助けたいの。辛いことを聞くかもしれないけれど、お姉ちゃんの質問にちゃんと答えてくれるかな」  こくり、と少女がうなずく。  マイがにやにやした視線を向けてくる。  舞台は整ったというわけだ。  シェイクスピア詩劇のセリフが、ふと脳裏をよぎる。  ゲーム・イズ・アフッド。 「まず誰と遊んでいたのか教えてくれるかな」 「えーっとね、アメリーちゃんにバルバラちゃんに、あとドミニク君も」 「四人はいつから一緒に遊ぶようになったの?」 「バルバラちゃんの他は生まれた時からだよ。家が近くて仲良しなの」 「みんなのお家はどんなお仕事をしているのかな」 「えっとね。アメリーちゃんのお父さんお母さんはお百姓さん。王国一の土地を持っていて王様にいっぱいいっぱい小麦を収めているの。ドミニク君の家は鍛冶屋さん。街で一番の腕効きなの。ビルギットちゃんは男の人ばかりの旅芸人一家なの。一月前からこの街に来ているわ。私のお母さんは織物をして市場に売りに出ているの。お父さんは昔、お星様になったみたい」 「ここ最近、みんなの間で何か変わったことは無かった? けんかしたりとか」 「最近は無いよ。それに、ごめんなさいをすればすぐに仲直りできるの」
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