第一夜 子どもたちが屠殺ごっこをした話

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「お利口さんだね。えらいえらい。じゃあ最後にもう一つだけ。屠殺ごっこをしようって言いだしたのは誰かな」  ここに来て初めてビルギットは少しためらう様子を見せた。  それも少しの間で元気よく答えが帰ってきた。 「ドミニク君だよ。いつも面白い遊びを考えてくれるの」 「ドミニク君ともお話してみたいな。よかったらお家まで案内してもらえるかな」  話すことで気が晴れたのか、ビルギットにぐいぐいと手を引かれるままにマイを置いて私は家を出た。 街一番の鍛冶屋は街の中央を通る大きな商道に面していた。  普段なら良質の刃物を求めるお得意様達で賑わっているのだろう。  が、陰惨な事件の影響か全ての扉は固く閉ざされていた。  人気は感じられなかったが、ビルギットは大声で友達の名前を叫ぶ。  むすっとした表情のドミニクが庭から姿を現した。  私がビルギットの友達であると自己紹介し、手短に事件の詳細を調べていることを伝えた。  すると頬にそばかすの目立つ少年は、露骨に顔をしかめて言い放った。 「確かに屠殺ごっこを提案したのは僕さ。なぜかだって? 飽きちゃったんだ。鬼ごっこもおままごともね。でもそれだけのこと。何か文句あるのかよ」 「ちょっとドミニク。そういうぞんざいな言い方は無いでしょう」  私に対してそっぽを向いてふてくされる少年を、ビルギットがたしなめる。 「カッシーごめんね。ドミニクは大好きなかくれんぼを禁止されたから、いらいらしているだけなの」 「最近つまんないんだよ。家で仕事の手伝いばっかりさせられて、外にだしてもらえないじゃないか。大体のろまなビルギットが悪いんだよ。親父に見つかったせいで鍛冶場倉庫でのかくれんぼがばれるし。いつもの遊び場所はなくなるし、ひっぱたかれるし最悪だ。あの日から親父も怒りっぽくなって面白い遊びを教えてくれないから――」  その時、鍛冶場の格子窓が開き、岩を思わせるいかつい顔の男が現れ雷を落とした。 「こらドミニク! 何度も言っただろうが。人殺しの子なんかと関わるんじゃねえ! 口で言って分からねえならげんこつだぞ。そこの変な服着た女も! 忌々しい子ども共々どっかいっちまえ!」  窓から雷親父の姿が消え、戸口が大きな音を立てて開いた。  私は怯えるビルギットの腕を千切れんばかりに引っ張り、命からがら逃げ出した。
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