第1章

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それは遠い昔昔の物語 知っている者にも知らぬ者にも、断片的に伝わる物語。 儂はこの地にて起きた出来事を、千里眼なる術で一部始終覗き見しておった仙人じゃ。 さて、皆様方に儂が見た出来事を少々語って聞かせようぞ? ここは人は勿論獣さえ入り込む事の出来ない山岳地帯、その中心に異様な黒い濃霧に包まれた岩山が存在するのじゃ。 この異様な岩山近辺では、不可思議な事が度々起きると人伝えで噂されておった。突如山頂より炎が噴き出したかと思えば、雲のない場所から雨や雷が降ってきたり、いきなり突風が吹き荒れたかと思えば、地面が揺れ動き迷い込んで来た者を近付けさせないと言うのじゃ。 この火・水・地・雷・風の異常現象を起こす不可思議さより、五行の理からこの山は『五行山』と呼ばれるようになった。 じゃが一番の問題は、誤って五行山へ入り込みし者達は、今だかつて一人たりとも戻って来ず、人間達は近付く事はもちろん、その山の方角すら不吉の象徴と恐れておったのじゃ。 と、そこに… 一人の男が足を踏み込もうとしていたのじゃ。 男の前方には雷鳴が轟く黒い濃霧に覆われた岩山がそびえ立ち、その山道は草木が枯れ果てた生気のない荒廃した道のりが続いていた。 そのような山に男は向かおうとしているのじゃ… 「ここか…」 男は肩まで伸びた長髪を靡かせ向かう。その身なりは左手に数珠を、右手に金色に輝く錫杖を持ち、修行僧の衣の上に赤い袈裟を羽織った出で立ちから、どこぞの高僧だと見て取れた。 いや?高僧と呼んで良いのじゃろうか?そうと言うのも、この男の眼光は獣のように鋭く、その先を見据えた眼差しには強烈な意志の力を感じさせられたのじゃ。 つまり目付きが悪いと言う事じゃな…うむ。 とにかく並みの僧侶ではなかろう。 退魔師… 不吉な現象や、モノノケの類い等、人間達はもちろん、専門分野であろう僧侶でも抱えきれない暗件を解決する特殊な力を持ちし人間。
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