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「そんなに乗りたかったのか?」
部室に入ってきた高山に開口一番、沢崎は言った。
「ああ、乗りたかったな。何しろそのために、学業そっちのけでトレーニングに励んできたんだから」
高山に限らずパイロットの連中のこういう所が、沢崎は嫌いだった。
俺たちパイロットはお前らと違い、すべてを犠牲にしてるんだということをこれ見よがしにする態度がー。
高山は続ける。
「すべては大会のためだ。俺たちパイロットはチーム全員の期待を背負って飛ぶ。選ばれなかった者は選ばれた者を、心の底から応援する。それは共に努力してきた仲間だからだ。なのにお前はどこの馬の骨かも分からん小娘を連れてきて、パイロットにした。こんな事でチームがまとまるワケないだろ」
「だから切ったのか。遠峰の自転車のワイヤーを」
沢崎は迫る。
「勝つためとはいえ、お前たちの気持ちを考えずに遠峰をパイロットにしたのは、たしかに強引だった。それは認める。しかしだからといって、遠峰に危害を及ぼすなど許される訳がない…。アイツ、一歩間違えば死ぬところだったんだぞ!わかってんのか?!」
高山の胸ぐらを掴む。
絶対にお前を許さんー。
高山は沢崎から視線を外し、横を向く。まったくの無抵抗だ。
「やってない…」
なに?
「警察にも聞かれたが、俺はやってないよ…。さすがに、そんな事はできない」
高山の言葉には、真に迫るものがあった。
沢崎は掴んでいた胸ぐらから、手を放す。
そして、直感的に思った。
違う。コイツじゃないー。
「だが、心当たりならある。やったのは、アイツじゃないか、っていう…」
高山が俯いたまま言った。沈痛な表情ー。
「誰だ?」
言うか言うまいか迷った末、高山は言った。
「小出…」
小出晋也ー。3年のパイロットだ。
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