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美枝子が、血相を変えて楽屋を飛び出してきた。
そして、トシ子の前に立ったー。
「あーら、澤村美枝子さん。私、真実の母親でー」
バシッー。
言い終わらないうちに、美枝子の右の掌がトシ子の左の頬を打った。
叩かれたトシ子はもちろん、周りにいる人たちも呆気にとられているー。
「アンタ、いきなり何をー」
トシ子はようやく我に返り、美枝子に詰め寄る。
バシッー。
今度は右の頬を、美枝子の左の掌が打ったー。
「ちょっと、ホントに何なのよーっ!アタシが何したっていうのよ!」
トシ子は泣き叫ぶ。
「あなたが母親ー?ふざけた事を言わないで頂戴!」
美枝子が怒りを爆発させる。演技以外で美枝子がこんな姿を見せるのは、初めての事だ。
「あなたが自分の娘に、真実さんにした事…。人間のする事じゃあない…」
美枝子も、涙を流しているー。
ここで、トシ子はハッとした表情を浮かべ、頭を垂れた。この人は、すべて知っている…。
主演ドラマ終了後、子役としての延命を図って、トシ子は真実に『成長抑制剤』なる薬物を投与していた。無論、国から認可されていない違法な薬物である。
美枝子はそれを、見抜いていたー。
「もう二度と、真実さんの前に現れないで…」
「はい…」
美枝子は涙を拭うと、少しだけ表情を輝かせて、言ったー。
「今は事務所の社長さんが彼女の面倒をみていますが、これからは、わたくしが真実さんを引き取ります。高校にも行かせます。本人が望めば、大学にだってー」
美枝子の瞳は、遠くを見つめるー。
「そして真実さんを、世界一の女優にします」
トシ子は土下座をして、どうか、どうかお願い致します、と美枝子にすがり付き、去って行った。そして二度と、真実の前に現れる事はなかった。
「おはようございます!今日もよろしくお願いします!あー、お腹すいた」
何も知らない真実が元気にスタジオ入りし、美枝子の楽屋に挨拶に来た。
「お帰りなさい」
美枝子は、真実を抱きしめるー。
「ちょっと、美枝子さん、どうしたんですか?痛いですよー」
「これからは、わたくしがあなたを守ります。何があってもー」
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