2021年(令和3年)12月

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そして【島尾修助様】と書かれた貼り紙のある楽屋まで行き、ドアをノックする。 「3時のプリンセスの福田です」 「おう、入り~」 中から修助の声が━。 「失礼致します」 扉を開け、麻実は頭を下げながら中に入る。 広い。自分たちの倍以上ありそうな楽屋だ。 そして自分たちの部屋にはないリクライニングチェアに、修助はふんぞり返っていた。 さらに部屋の中には、もう一人の人物が━。 「よー、麻実ちゃん。久しぶり~」 あっ、あなたは━。 人気タレントの手川悦朗(てがわえつろう)であった。 「おはようございます!」 麻実はあわてて挨拶する。手川は白の紋付き袴姿だ。 一度、あるバラエティー番組で共演したことがあるが、なぜ手川がここに? 『笑王戦』には、出演しないはずである。 そんな麻実の疑問を察したのか、手川は言った。 「修助さんの復帰でしょ。お祝いの挨拶に、飛んで来たのよ」 楽屋内には、様々な芸能人やスポンサーから贈られた祝いの花が、所狭しと飾られている。 「コイツな、紅白のスタジオ、抜けてきてくれたねん。律儀やろ?」 修助が言った。 そうだ。手川は裏の紅白歌合戦に「白組応援団」として出演しているのだ。それで、こんな格好を……。 「いやいや、オレの出番はもうほとんど終わりで、あとはエンディングにちょこっと顔出すだけですから」 それでもNHKのある渋谷から、この虎ノ門まで駆けつけて来たのである。 こうした"気遣い"が、手川が芸能界で成功している秘訣とも言える。 「手川━」 「はいっ!」 「素敵やん」 「ありがとうございます!」 「マミ━」 ……え、アタシ? 「は、はい」 「そんなトコ突っ立ってないで、座り」 ふんぞり返ったまま、修助が言った。 「あ、はい。失礼します」 麻実は手川の隣の椅子に腰かけた。 手川さんがいてくれて良かった…。麻実は思う。修助と二人きりは、やはりキツイ状況だ。 「マミ━」 修助が再び、声をかける。 「はい」 「優勝したいか?」
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