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美枝子は真実を、そっと抱き寄せた。
「真実…。わたしの事を心配してくれてありがとう。嬉しいわ、とってもー」
真実は美枝子の胸に頬を埋めて泣きじゃくる。嗚咽が収まるのを待って、美枝子は言ったー。
「わたしだって女よ。人に裸を見られるのは恥ずかしいし、怖いわ…。でもね、女優になった時、決めたの。この身のすべてをお芝居に、映画に捧げよう、ってー」
真実は、美枝子を見上げる。見る者誰をも魅了する、女神のような笑顔が、そこにあるー。
「あなたもここ数年、お仕事がなくて辛い思いをしたでしょう。わたしもそう。お仕事を頂けるというのは、女優にとって、とてもありがたい事。その頂いたお仕事は、必ずやり遂げる。お仕事をくれた方の求めるとおりに。それがわたしの、プロの女優としてのプライドよ。わたしは絶対に逃げないー」
「美枝子さん…」
「真実、分かってくれるわね?」
美枝子は真実の髪を、優しく撫でる。
「はい…」
「ありがとう」
真実の涙を指先で拭いながら、美枝子はその瞳に語りかけた。
「あなたにも将来、必ずこういう時がくるー。その時はね、ストーリーの必然性がどうだこうだとか、断る理由を探してはだめ。どうすれば要求に応えられるのかを、相手の立場になって考えてあげて。それはとても勇気のいる事だけど、逃げたら女がすたるわよ。『アタシにまかせて』っていう気持ちが大事ー」
「ハイ!」
真実はようやく、笑顔になった。
「しっかり見てなさい。わたしの一世一代のベッドシーンよ!」
この夜の美枝子は、とても饒舌であったー。
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