1999年(平成11年)10月

14/23
前へ
/1815ページ
次へ
美枝子は真実を、そっと抱き寄せた。 「真実…。わたしの事を心配してくれてありがとう。嬉しいわ、とってもー」 真実は美枝子の胸に頬を埋めて泣きじゃくる。嗚咽が収まるのを待って、美枝子は言ったー。 「わたしだって女よ。人に裸を見られるのは恥ずかしいし、怖いわ…。でもね、女優になった時、決めたの。この身のすべてをお芝居に、映画に捧げよう、ってー」 真実は、美枝子を見上げる。見る者誰をも魅了する、女神のような笑顔が、そこにあるー。 「あなたもここ数年、お仕事がなくて辛い思いをしたでしょう。わたしもそう。お仕事を頂けるというのは、女優にとって、とてもありがたい事。その頂いたお仕事は、必ずやり遂げる。お仕事をくれた方の求めるとおりに。それがわたしの、プロの女優としてのプライドよ。わたしは絶対に逃げないー」 「美枝子さん…」 「真実、分かってくれるわね?」 美枝子は真実の髪を、優しく撫でる。 「はい…」 「ありがとう」 真実の涙を指先で拭いながら、美枝子はその瞳に語りかけた。 「あなたにも将来、必ずこういう時がくるー。その時はね、ストーリーの必然性がどうだこうだとか、断る理由を探してはだめ。どうすれば要求に応えられるのかを、相手の立場になって考えてあげて。それはとても勇気のいる事だけど、逃げたら女がすたるわよ。『アタシにまかせて』っていう気持ちが大事ー」 「ハイ!」 真実はようやく、笑顔になった。 「しっかり見てなさい。わたしの一世一代のベッドシーンよ!」 この夜の美枝子は、とても饒舌であったー。
/1815ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1217人が本棚に入れています
本棚に追加