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あれ?どこに行ったんだろう、かなえ…。
テーブルの上には飲みかけのコーヒーの紙コップが、そのまま置いてある。
そうか。これからここでネタを書くアタシに気を使って、外に出たんだ。
普段、麻実は自室に籠ってネタ書きをする。一人でないと気が散ってしまい、ネタが書けないのを、かなえは知っている━。
よし、書くぞ。
いつも持ち歩いているタブレットを、麻実は取り出す。ネタはすべて、これに入力している。
麻実の頭の中にあるのは、以前舞台でやって好評だった、プラネタリウムのネタ。
麻実が館内ナレーションを担当するスタッフ、かなえとゆのっちが客のカップルという設定のコントだ。かなえが男役、ゆのっちが女役━。
ホステスのジャスミン(ゆのっち)と不毛な恋をしている、既婚者のおじさん(かなえ)が繰り広げる星座の神話のような物語にツッコミを入れる、プラネタリウムの解説スタッフ(麻実)。
今回はかなえと麻実、二人の絡みとなる。カップルの会話を、男の回想、独り言に書き直す。
かなえにはかなりの負担をかけることになるが、あのコのセンスの良さ、実力なら大丈夫。そして━。
書き終わった。予定どおり、ちょうど20分で。
『書けたから戻ってきて。今から合わせるから』
その辺で時間を潰しているであろうかなえに、麻実はLINEを送った━。
スタジオではちょうど、トップバッターの粗大がネタをしている頃だ。彼は麻実にとって押本の後輩だが、すでに売れっ子である。
どんなネタをしているのか━。
気になる。楽屋にモニターは置かれているから、見ようと思えばいつでも見られる。
しかし麻実は、モニターを点けない。見てもプレッシャーになるだけ。それに相手のネタを見て自分たちのネタを変えるような余裕は、こっちにはない━。
ふと我に返る。
かなえがまだ戻って来ない。
メールを送って5分経っているが、返信どころか、既読にもなっていない……。
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