2021年(令和3年)12月

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大晦日の夜である。 厚手のダウンジャケットを着込んで、麻実は凍るような寒さの中庭に出た。弾む息が白い。 緑色の芝生と木々があり、野球場のグランドくらいの広さであるが、照明はない。ただし社屋から照らされる灯りがあるため、真っ暗、というわけでもなかった。 ベンチや芝生に人の姿は見えない。となるとその先の、あの林の中━? 「かなえ━━━っ!いるの?!」 大声を出したが、あわてて止めた。 生放送の出番直前に芸人がいなくなり、相方が探しているなどということが局内に知れ渡ったら、終わりだ。 麻実はスマホを取り出し、かなえの番号を鳴らしながら、木々の間に入ってゆく。 ホントに、どこに行ったのよ……。 まさか、決勝本番のプレッシャーに押し潰されて、局から逃げ出した…? いや、体に似合わず繊細で臆病だが、かなえはそんな責任感のない子ではない。 そしてファーストラウンドでは、セリフが頭から飛んだ自分を、咄嗟のアドリブで救ってくれた。 ただでさえ一人欠けていて窮地に追い込まれているチームを、体を張って守ってくれたのだ。 麻実の瞳から、涙がこぼれ落ちる。 かなえ、帰ってきて……。 そんな麻実の意識の中に、微かな音が入ってきた。 さらに耳を澄ますと、それはメロディになっている。軽快なリズムで、しかも聞き覚えのある━。 その電子音が、麻実の頭の中で、一つの記憶と繋がった。 これは、かなえのスマホの着信音━! 音のする方へ、麻実は猛然と駆け出す。すると━。 見慣れたピンク色のケースに収まったかなえのスマートフォンが、地面でメロディを奏でていた。 誰もいない闇の中、青白い光を弱々しく放ちながら……。
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