2021年(令和3年)12月

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麻実は息を飲む。 そして自分のスマホの呼び出しを切った。自然、かなえのスマホが鳴り止む。 かなえは、何かの事件に巻き込まれた……。 それはもう、明らかである。おそらくここで、何者かに拉致された。 麻実はスマホを拾い、画面に指を走らせる。かなえは取り立てて、携帯にロック機能などはかけていない。 電話の最終着信は、今の自分からのもの。その前はマネージャーの志村だ。もちろん、出ていない。 そしてLINEのメールのやり取りを見てみる。最後のやり取りは今日の17:05、『今日はがんばってね』『うん。ありがとう』という、母親との簡単なものであった。 麻実はかなえの失踪を志村に報告。志村は会社に対応の指示を仰ぐ。 果たして、押本の出した結論は━。 「かなえの失踪は、ゆのっちの行方不明と合わせて番組終了後、警察に届け出る。最終ラウンドには出場、局の了解は取ったので、ネタは麻実一人でやれ」 テレビ局も芸能事務所も、タレントの安否より番組を優先したというわけだ。 間もなく出番━。 麻実は単身、スタジオに乗り込む。その表情に、涙も悲しみもない。 ただ女芸人の、凄みを漂わせて━。 スタジオではすでに粗大とミルクキッドのネタが終了。局と押本が対応を協議していたため、番組は長いCMに入っている。 麻実の登場に、スタジオはざわめく。すでにこちらにも、事の内容は伝わっているようだ。 浜野や松友ら出演者に頭を下げると、麻実はツカツカと修助のもとに歩み寄った。 「何や?」 怪訝な表情を浮かべる修助に、無表情で言い放つ━。 「勝たせて頂きます」
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