2021年(令和3年)12月

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「ちょっと()いや」 修助はスタジオのセット裏に、麻実を連れ立つ。 周りに人がいないのを確認すると、修助は言った。 「その気になったようやな。よし、ほな他の審査員にも言って、お前を勝たせたる」 「ありがとうございます」 「でもお前、一人でやるんやろ?」 「はい」 「やったことあるんか?ピンで」 「いえ」 「おい大丈夫か?あんまり出来がヒドかったら、さすがにお前に入れるワケにはいかへんで」 「大丈夫です」 「よし、頼むで。ほなコレ━」 修助は一枚のカードを取り出した。 「ホテルの部屋のカードキーや。番組終わったら、先に行っとき」 しかし、麻実は受け取らない。それどころか━。 「はあ?誰が行くって言いました?そんな所」 「……?」 「アタシ、絶対にしませんから。枕営業なんてバカなコト」 麻実は不敵な笑みを浮かべた。 「何やと……?」 修助の表情が、一瞬にしてあの強面(こわもて)に変わる。 「何の見返りもなしに、オレがお前なんかを勝たせるワケないやろ。死にたいんか、お前━」 修助は凄む。その顔つきと言葉遣いは、反社会的勢力(ヤクザ)と言われる者たちのそれと、何ら変わらない。 やはりこれが、この男の本性━。 しかし麻実にたじろぐ様子は、まったくない。 客の前にすべてをさらけ出し、笑いを取る。芸の道に進んだ時点で、とうに女であることなど捨てている。 こうした女芸人の覚悟、男の芸人など足元にも及ばない。 「いいえ。あなたは絶対に、アタシを勝たせてくれますよ。これを聞けば━」 麻実はピンク色のケースに収まる、かなえのスマホを取り出した。 そして━。 「さあ、3組のネタが終了しました!審査員の皆さん、ご自分が一番良かったと思う組のボタンを押してください!」 モニターに、各審査員が入れた票が映し出される━。 巨神………3時のプリンセス ピロミ……粗大 下沼………3時のプリンセス 花井………ミルクキッド 冨山………ミルクキッド 松友………粗大 修助………3時のプリンセス 3時のプリンセス3票。粗大、ミルクキッド2票。 よって優勝は、3時のプリンセス━。
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