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「ちょっと来いや」
修助はスタジオのセット裏に、麻実を連れ立つ。
周りに人がいないのを確認すると、修助は言った。
「その気になったようやな。よし、ほな他の審査員にも言って、お前を勝たせたる」
「ありがとうございます」
「でもお前、一人でやるんやろ?」
「はい」
「やったことあるんか?ピンで」
「いえ」
「おい大丈夫か?あんまり出来がヒドかったら、さすがにお前に入れるワケにはいかへんで」
「大丈夫です」
「よし、頼むで。ほなコレ━」
修助は一枚のカードを取り出した。
「ホテルの部屋のカードキーや。番組終わったら、先に行っとき」
しかし、麻実は受け取らない。それどころか━。
「はあ?誰が行くって言いました?そんな所」
「……?」
「アタシ、絶対にしませんから。枕営業なんてバカなコト」
麻実は不敵な笑みを浮かべた。
「何やと……?」
修助の表情が、一瞬にしてあの強面に変わる。
「何の見返りもなしに、オレがお前なんかを勝たせるワケないやろ。死にたいんか、お前━」
修助は凄む。その顔つきと言葉遣いは、反社会的勢力と言われる者たちのそれと、何ら変わらない。
やはりこれが、この男の本性━。
しかし麻実にたじろぐ様子は、まったくない。
客の前にすべてをさらけ出し、笑いを取る。芸の道に進んだ時点で、とうに女であることなど捨てている。
こうした女芸人の覚悟、男の芸人など足元にも及ばない。
「いいえ。あなたは絶対に、アタシを勝たせてくれますよ。これを聞けば━」
麻実はピンク色のケースに収まる、かなえのスマホを取り出した。
そして━。
「さあ、3組のネタが終了しました!審査員の皆さん、ご自分が一番良かったと思う組のボタンを押してください!」
モニターに、各審査員が入れた票が映し出される━。
巨神………3時のプリンセス
ピロミ……粗大
下沼………3時のプリンセス
花井………ミルクキッド
冨山………ミルクキッド
松友………粗大
修助………3時のプリンセス
3時のプリンセス3票。粗大、ミルクキッド2票。
よって優勝は、3時のプリンセス━。
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