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こうして麻実は、初代『笑王』の称号と優勝賞金3000万円の目録を手にする。
しかしその顔に、満面の笑みや喜びの涙といったものはまったくない。
それはそうである。昨夜から今晩にかけて、相方二人が忽然と姿を消してしまったのだから━。
さらに最終決戦でのネタも、決して喜べるような出来ではなかった。
結局、あのプラネタリウムのネタを一人語りに変えて臨んだのだが、優勝というレベルでは、到底なかったのである。
それでも優勝できたのは、修助に票を取りまとめてもらったから。さすがに松友に声をかけるのは憚られたようだが、巨神と下沼は確実に買収したのである。金を貸しているという話、どうやらホラではなかったようだ。
しかし枕営業を拒否したにもかかわらず、修助は何故3プリ勝利に動いたのか━。
それはあの時、修助にセット裏で、かなえのスマホに残されたある動画を見せ、その音声を聞かせたからに他ならない。
ホテルの部屋に来るのを拒絶され、凄む修助に、麻実は言った。
「これ、かなえが撮った動画です。あの子、こんなん録ってたんですね━」
「……?」
まず画面に、【島尾修助様】の文字が映し出される。修助の楽屋のドアだ━。
そして、こんな音声が聞こえてくる。
『マミ━』
『はい』
『優勝したいか?』
修助の顔色が変わる。これは、あの楽屋でのやり取り……。
画像はドアの文字のまま、音声だけが進んでゆく━。
『わかってほしいんや、オレの気持ち━。お前を勝たしてあげたい。最終決戦でも━。赤坂プリンセス、最上階のスイートや。番組が終わったら、来てほしい…。来るって約束してくれるなら、お前らが勝てるよう、審査員に根回ししといたる』
『根回しって……』
『お前らに票を入れるよう頼んでやる、ってことや。まず松友━。アイツはオレの頼みは何でも聞いてくれる。これで1票。それと、巨神と下沼━。実はオレ、アイツらにカネ貸しとんねん。無利子、無期限で━。よってオレの言いなりや。はい、これで3票。それにオレの1票で計4票、過半数━。あとの3人が誰に入れても、優勝はお前らや』
優勝の見返りに自らのホテルの部屋に来るよう言い寄る、枕営業強要の決定的な音声である。
かなえはあの時、こんなものを録っていたのだ。
楽屋に戻るよう言われたものの、麻実の身を案じ、かなえは修助の楽屋の前まで来た。
そこで部屋の中から聞こえてくるやり取りを耳にし、動画を撮ったのだろう。
では何故、中の音が漏れ聞こえてきたのか。誰が聞いても島尾修助の声と分かるほど、音声は鮮明に録れている。
麻実は考え、結論に達した。ドアがしっかり閉まっておらず、そこから音が漏れてきていたのだ。
あの時、部屋に入った自分は思いがけず中にいた手川悦朗の姿に驚き、後ろ手にドアをちゃんと閉めるのを忘れていたに違いない。
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