1999年(平成11年)10月

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1週間後ー。この日、美枝子のベッドシーンの撮影が、都内の撮影所で行われる。 まず先に、相手役の若手俳優・鮫島健斗がスタジオ入りした。プレッシャーに押し潰されそうな面持ちである。 続いて、美枝子が入ってきたー。 こちらはいつもと何ら変わる事のない、落ち着き払った表情である。むしろ、寄り添う真実の方が、緊張で顔が強張っていた。 黒岩の発案により、今回の撮影は臨場感とリアリティーを追及するため、カメラを止めずに撮る、いわゆる長回しで行われる。そしてリハーサルなしの一発本番で、男女の交わりの仕方は、演者2人に委ねられる。 もちろん、実際に結合する訳ではないので、2人は局部に前貼りを着けて撮影に臨む。しかし言い換えれば、局部以外はすべて、カメラの前に晒される事になる。 美枝子にとって初めての、フルヌードであった。 女優人生の中で、美枝子も短いカットの濡れ場は何度かこなしているが、ここまで大がかりなものは、経験がない。 一方の鮫島は、役者になってこれが初めてのベッドシーンである。言わば、まったくの素人だ。 ここはやはり美枝子が、リードしてやらなければならないだろう。 美枝子演じる役が住むマンションの一室、というセットが組まれ、演者2人と監督の他、カメラ、音声、照明以外のスタッフは外に出された。 美枝子の希望により、真実は入室を許されている。 そしてー。 「用意…、スタート!」 黒岩の合図で、撮影が始まった。
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