1999年(平成11年)10月

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「ハイ、OK!」 黒岩が叫んだ。撮影終了ー。 ガウンを片手に、真実が美枝子のもとに走る。 美枝子の上に、鮫島は覆い被さったままだー。 真実が鮫島を引き剥がそうとするが、美枝子はそれを目で制止する。 そして、鮫島の耳元で囁くー。 「お疲れ様。終わったわよ…」 美枝子に抱きついたまま、鮫島は泣いていた。 映画の撮影にも拘らず射精してしまった事への恥ずかしさ。そして自分をリードし、すべてを受けとめ優しく包んでくれた美枝子への感謝と、かすかに芽生えた恋愛感情ー。 こうした思いが重なり、鮫島は、涙が止まらなかった。 「澤村さん、ごめんなさい。僕…」 「いいのよ、気にしなくて。よく頑張ったわー」 鮫島はようやく美枝子から離れ、身を起こし、ベッドを下りた。 美枝子の下腹部から顔付近にかけて、鮫島から(ほとばし)った大量の白い液体が、ベットリと付着している。 真実はそれをティッシュで懸命に拭き取る。それは初めて目にする、初めて触れる、初めて匂いを嗅ぐものであった。 「どうだった?真実。あなたにはベッドシーンはまだ、刺激が強すぎたかしら…」 真実に精液を拭き取ってもらいながら、美枝子が尋ねるー。 「大丈夫です。美枝子さん、本当に素晴らしかった…。アタシも早く、美枝子さんみたいになりたいー」 そしてベッドの上にもう一つ、鮫島の残骸が落ちている。前貼りであったー。 一方、美枝子の前貼りは最初のままの状態で、きちんと貼り着いている。このビニールシートは最後まで美枝子の秘部を隠すとともに、鮫島の侵入を防いだのだった。 従って、鮫島がとらわれた結合感は、やはり錯覚だったと言える。 女優・澤村美枝子の迫真の演技の前に、挿入したと勘違いし、射精までしてしまったのか…。 真実にガウンを着せてもらった美枝子に、黒岩が近寄るー。 「美枝ちゃん、お疲れさん。いやあ、さすが澤村美枝子だ。おかげさまで、いい()が撮れたよ」 ここで黒岩は、声のトーンを下げた。 「それにお前さんのその体、30年前とまったく変わらないな…」 その当時、美枝子は妻子ある黒岩と、不倫の関係にあったー。 「でもな、美枝ちゃん。相手の役者をイカせるようなさっきの演技は、ちとやり過ぎだよ。AVじゃないんだから…」 美枝子は薄く笑う。そしてー。 「お疲れ様でしたー。真実、行くわよ」 何も語らず、美枝子はセットを後にした。
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