1980年(昭和55年)6月

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外に出ると覆面パトカーが1台、止まっていた。 「どうぞ、お乗りください」 後部座席のドアを開け、蚊蜻蛉はシスターを中に入れる。 シートに腰を下ろすシスター。しかし車内には運転席にも助手席にも、人は乗っていない。(カラ)の車であった。 そして蚊蜻蛉も乗らずに、車外から言う。 「すみません、ちょっと用事を思い出しまして……。すぐに戻りますので、待っててもらえますか?」 「は、はい……」 戸惑いの表情を浮かべるシスターを尻目に、蚊蜻蛉はドアを閉め、車を離れて行った。 シスターは警察車両に一人、取り残されたのである。 もう夜の9時を回ったか。消灯時刻を過ぎた寮の敷地内は暗く、静寂に包まれている。 それにしてもあの蚊蜻蛉、なんて人を食った刑事なのだろう。曲がりなりにも、自分は殺人犯。それをこんな風に一人で放置して。逃亡を図られたら、どうするつもりなのだろう……。 もちろん自分は、もう逃げも隠れもするつもりはないが━。 逮捕しても、蚊蜻蛉が言っていた自分の部屋の家宅捜索は、予定通り行われるだろう。 そして、デスクの中から発見される。あの日澤部から聴かされた、恵理が化け物に喰われる様子を収めたテープとテープレコーダー、それに彼女の部屋から回収した盗聴器が━。 これにより、自分の犯した殺人の動機が立証されるのだ。 処女であるはずの自分が化け物に喰われなかったという事実を知った、澤部の口を封じるため━。 でも動機は、本当はそのことじゃない。 蚊蜻蛉が言ったように、自分はそんなことでは人は殺さない。 本当の動機は、あの女が私の大切な人の、秘密を知ったから。 恵理……。 ママはいつか、話そうと思ってたの。私があなたを産んだ母親だということと、あなたを手離さなければならなかった理由。そして、あなたのお父様のことを━。
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