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ママがあなたを産んだのは、17才の夏。学院の高等部2年生だった。
当時、成績の良い生徒を数名、将来の幹部候補生として東京にある教会の本部で研修させるという制度があったの。高等部1年の私は、そのメンバーに選ばれた。
東京に行くなんて、生まれて初めて。そこで私は一人の男性と、燃えるような恋をした。それがあなたの、お父様……。
お父様は教会のトップで学院の理事長でもある方の、ご子息。当時大学生だった。
優しくて、背が高くて、ハンサムで━。お父様はこっそりと、私をいろんな所に連れ出してくれた。
そしてあの夜、結ばれたの……。
でも私たちの仲はすぐに教会幹部に知られるところとなり、引き裂かれた。お父様の将来に傷をつけてはいけない、という理由で……。
寮に戻された私は、しばらくしてお腹にあなたを宿していることに気がついた。
産みたい。どうしても、あの人の子を━。
でもそんなことを知られたら、間違いなく堕ろさせられる。
血は争えないものね。ママはあなたと同じように、脱走を決意したの。
一人で産んで、育てる━。
でもすぐに捕まって、独居房に入れられたわ。そこで当時の寮長に、すべてを告白したの。あの人の子を、妊娠していると……。
寮長は私を自宅に匿い、休学という形をとって、教会には内密にあなたを産ませてくれた。
出産の条件は、決して口外しないこと。この子を産んだという事実と、父親の名を━。
泣く泣く私はあなたを手離し、復学。あなたは寮長によって、施設に預けられた。
あなたの「高井」という姓は、その寮長の姓。名前は、ママがつけたのよ。
3年後、寮長は亡くなり、20才の私がその後任に。
そしてあなたが中学生になった昨年、学院に入学させたの。もちろん素性は明かせないけど、あなたにどうしても、ママのそばにいてほしくて……。
お父様は東京で家庭を持ち、奥様とお子さんがいる。そして学院の理事に名を連ねながら、政界に進出。与党・自主党の代議士でもある。
そんなお父様の経歴に、泥を塗るわけにはいかないものね。でもいつか、あなたが大人になったら、話そうと思ってたの。すべてを━。
なのにあの夜、あなたは化け物に喰べられてしまった。
ごめんなさい。あんな所にあなたを閉じ込めた、ママのせい……。
そしてあろうことか、あなたの出生の秘密をあの女、澤部俊子が調べ上げていた。
あなたにしか知らせないと決めていた、ママとあなたの真実を。だから、殺した……。
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