1967年(昭和42年)8月

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真夏の夜のことであった。 東京近郊の大きな屋敷。主は、とある大企業の重役である。 この家の一人娘で、17歳の美佐子は、上流階級の子女が多く通う事で有名な女子高校の二年生である。 食事、入浴を済ませ、ネグリジェ姿で二階の自室のベッドに寝転ぶ美佐子は、一人読書に耽っていた。一学期最終日にクラスメートから借りた、長編の恋愛小説である。 蒸し暑い晩で、窓は開け放っていた。敷地が広いので、近隣の家から覗かれる心配はない。 10時を過ぎた頃、階下の家族は、美佐子の異様な叫び声を聞いた。 「いやあぁぁぁぁぁっ!」 階段を駆け上がり、娘の部屋のドアを開けた両親の目に飛び込んできた光景は、世にも恐ろしく、おぞましいものであった。 巨大なハゲ頭の男が、大口を開けて美佐子を脚から飲み込もうとしている。 その化け物、人間の顔をしているが、手足はなく、首から下はヌメヌメと妖しく光る大蛇であった。今は丸まっているが、真っ直ぐに伸びれば、おそらく10mはあろう。 手足をばたつかせ、美佐子は必死の抵抗を試みる。が、化け物はガブリと若い肢体をくわえ込んで、離さない。 「お父さん、お母さん、助けてえぇぇぇ!」 娘の泣き叫ぶ声にも、両親は腰を抜かしてその場にへたり込み、動くどころか、声も上げられない。 美佐子は、すでに腰の辺りまで飲み込まれていた。
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