2013年(平成25年)6月

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「お願い、やめてーっ!」 滝沢が泣き叫ぶ。 化け物は、委細構わず、滝沢の長い脚をがっちりとくわえ込む。 「いやあぁぁぁぁぁぁぁっ!」 滝沢をくわえたまま、さらに首を伸ばして今度は夏帆を捕らえた。 そして上を向き、器用に二人を腰まで飲み込んだ。 UNDトップの座を巡り火花を散らしてきた両者が、同時に喰われようとしている。おぞましい光景であった。 そして二人に、恍惚の瞬間が訪れるー。 「イヤ、だめ、あっ…」 夏帆が、か細い声をあげる。 「あっ!ホントにやめてよ!もう…、あっ、あぁぁぁっ!!」 滝沢は絶叫する。 こんな時にあげる声まで、二人は対照的であった。 化け物は一気に、二人まとめて飲み込んだ。 周りのメンバーも、スタッフも、そして観客も、茫然と見つめるだけだった。 化け物は観客席に下り、逃げ遅れた女子中学生三人を飲み込むと、さすがに満ち足りたのか、消えていったー。 こうしてメンバー二人、観客三人が犠牲となる、大惨事となった。時間にして僅か5分程の出来事である。 テレビ中継は当然の事ながら中断され、ステージ裏から化け物が姿を現したあたりからCMに切り替わっている。 高原は、一連の出来事を3階席のVIPルームで何するでもなく、ただ茫然と見つめていた。警察や消防に通報する事すらせずに…。 これは中継テレビ局の責任者である小沢プロデューサーにしても、同様であった。 化け物が去った後、事態を収拾しようとする者も現れず、ドームの会場全体が、殺伐とした、無法地帯のような空気になっている。 主催者サイドの不作為が、この後起きる第二の惨劇の要因となった事は、間違いない。
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