2013年(平成25年)6月

13/28
前へ
/1815ページ
次へ
きっかけは、観客の一人がつぶやいた、こんな言葉だった。 「ってことはUNDって、あの二人以外全員、処女じゃなかったんじゃね?」 これを隣にいる観客が聞き、同じ言葉をつぶやく。 「ってことはUNDって、あの二人以外全員、処女じゃなかったんじゃね?」 さらに隣の者が聞き、同じ言葉をつぶやくー。 言葉は瞬く間に伝播していく。そして、無事だったメンバーがへたり込んでいるステージの前まで伝わった時、それは断罪に変貌した。 「UNDは処女じゃない!」 観客たちは暴徒化し、一斉にステージ前に押し寄せる。 「お前ら、だましてたな!」「処女じゃねえだろう!」「何が『鉄の掟』だ!」「校則違反だぞ!」「いつヤッた?!」「俺にもヤラせろ!」 一人の観客が、ステージに上るハシゴに飛び付く。さらに一人が続く。さらにもう一人、さらに…。 あっという間に100人近い男たちがステージ下に群がり、ハシゴを上っていく。 「おらーっ、ヤラせろ!」 最初にステージに上り着いた男が、一人のメンバーに襲いかかる。 「いやあぁぁっ!」 必死に抵抗するが、男の腕力にはかなわない。あっという間に押し倒され、衣装を剥ぎ取らる。 「お願いします、やめてください」 「うるせーっ、どうせ処女じゃねえんだろ!」 哀願もむなしく、いきり立つ男に突き破られた。 観衆がアイドルを犯すー。こうしたおぞましい状況が、そこかしこで発生していた。 そんな中ー。 「おおい、仲間を置いて真っ先に逃げ出したヤツがいたぞー」 アリーナ席で数人の男に捕らえられた、オザハルであった。 犯されたのであろう、衣装はボロボロにされ、顔が信じられないくらいに腫れ上がり、血まみれであった。何人もの人間に殴られたとみられる。 過ちを犯した者をかさにかかって糾弾し徹底的に痛めつける。 周りがやってるから自分もやる。 いけない事と分かっていても止めずに傍観者となる。 処女を喰らう大蛇と同じくらい、あるいはもっと恐ろしい「群衆心理」という名の化け物が、そこにいたー。
/1815ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1217人が本棚に入れています
本棚に追加