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「ねえ、あれ何かしら…」
貴子に手招きされ、定吉も下を覗き込む。するとー。
「あ、ありゃあ化け物じゃ!」
腰を抜かさんばかりの勢いで、定吉は叫んだ。
「化け物…!」
貴子の顔色が変わる。
巨大なハゲ頭に人間の男の顔、首から下は鱗に覆われた大蛇。処女を喰らう人喰い化け物が、ついに貴子の前に現れたー。
思えば震災の折、貴子は「化け物が出た」という定吉の流したデマに騙され、体を許した。
あれから20年、言わば現在の二人の関係は、この化け物なしには語れない。
あの時はデマだったが、今は正真正銘、そのおぞましき姿を見せている。しかも、貴子の屋敷の庭先に…。
その時、化け物がこちらを見た。貴子と目が合い、ニヤリと笑う。
貴子はカーテンを閉めた。
「ねえ、アイツは処女しか喰わないって、本当?」
定吉に尋ねる。この男は子供の頃、化け物を見た事があると言っていた。
「本当じゃ。ワシの村は、若い娘はみんな喰われた…」
定吉はワナワナと震えている。
「となると襲われても、私とアンタは大丈夫ね。問題はー」
貴子がここまで言った時である。
ドーンという轟音とともに、屋敷が揺れた。
爆撃かー?
そうではなかった。
何と化け物が屋敷の玄関の扉に、体当たりをしていたのである。何度も、何度も…。
おそらく紘子の、処女の匂いを感じとり、侵入を試みているのだ。
それにしても、何という執念か…。
「お母様…」
先ほど出て行った紘子が、寝室の前にいるようだ。
一人で自分の部屋にいるのは恐ろしく、かと言って母の愛人がいる寝室に入る事もできずに、うろたえていたー。
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