2013年(平成25年)6月

17/28
前へ
/1815ページ
次へ
「で、その男にメンバーの少女を斡旋した訳だな?」 刑事が尋ねる。容疑を固める上で、最も重要な質問だ。 「ええ」 高原はあっさり認めた。 「でね、その課長さんを見て、思ったんですよー。刑事さん、中学・高校時代、クラスに一人か二人、眼鏡をかけて、成績が良く、みんなから『ハカセ』とか『メガネ』とか呼ばれてる優等生が、必ずいませんでしたか?」 「うーん、いたかな…」 「私のクラスには、必ずいました。そういう子が。でね、そういう子は決まって、クラスの中でコミュニケーション能力が低いんです。特に女子とは、まったく会話が出来ない。思春期なんだから、女の子に興味はあるはずなのに、頑なに話そうとしない。いや、話せないんです。で、たまに話しかけられて、真っ赤になっている…。卒業後も、みんなソイツの事なんか気にもかけていないから、今なにをしているか、誰も知らない。この課長さんは、僕らが忘れていたあのガリ勉たちの、最高に出世した将来の姿なのではないか、ってね」 「何が言いたい?」 「まあ聞いてください。つまりこの課長さんたちは、僕らが学生時代に普通にした恋愛、彼女とデートするとか、キスするとか、あるいはセックスするといった事とは、まったく無縁の学生生活を送った訳です。言わば『失われた青春』です。本人が望んでそうなったのならそれでいいのですが、大半はそうじゃない。彼らだって、彼女が欲しかったし、エッチもしたかった。しかし、それが出来なかったー。私の知る限り、霞ヶ関のキャリア官僚の方たちは、こういうタイプの人が圧倒的に多い。もちろん、勉強も恋も両立した人もいるでしょうが、せいぜい全体の1割から2割程度でしょうね」 「それが、あんたの売春斡旋とどういう関係があるんだ?」 「大ありですよー。あの課長さんを始め、私の所に来た官僚さんたちは、『失われた青春』を取り戻そうとしたんです。処女を公言する現役高校生アイドルと、肉体関係をもつ事でね。もちろん、皆さんすでに童貞ではない。大抵は大学生になってから、風俗でセックスの経験はしている。省庁に入ってからは、紹介や見合いなどで大企業の重役令嬢等と結婚し、幸せな家庭を築いてはいます。しかし、それでは『失われた青春』を取り戻した事にはならないんです。今まさに青春時代の女の子と、セックスしない限りー」
/1815ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1217人が本棚に入れています
本棚に追加