2018年(平成30年)12月

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そして化け物は、会場から忽然と姿を消した。 最終滑走者である浅井未央が、化け物に喰われた。もちろん、会場は大混乱に陥っている。 そうした中、大会本部および日本スケート連盟は、フリーの演技前に未央は不慮の事故で死亡したものとし棄権扱い、よってそれまでの演技はすべて有効である事を発表した。 つまり、優勝は理玖。希原理玖、全日本選手権2連覇ー。 報道陣が、理玖のもとに殺到する。目的は優勝コメントを取る事ではない。 最初に襲われたにもかかわらず、あなたは何故、化け物に喰われなかったのかー。 記者やレポーターたちにもみくちゃにされながら、スタッフや警備員、さらには出動してきた大阪府警の警察官に護衛されて、理玖は宿舎のホテルに入った。 「ねえ、一人になりたいの。私は大丈夫だから」 同行してきたスタッフ全員を部屋から出し、衣装を脱いでバスルームへー。 熱いシャワーを浴びながら、思う。 あのオバサン、処女だったのか。かわいそうに…。でも、自業自得。おとなしくしてればいいのに、アタシに対抗心燃やして現役復帰なんかするから、こんな事になったのよ。 それにしても、こっちも苦労したわ。あのオバサンのせいでー。 トリプルアクセルを決めれば女子では楽に優勝できるのに、オバサンが復帰してきてアクセル跳ぶものだから、勝つために4回転を跳ぶ羽目になった。バレるから跳びたくなかった、4回転を…。 このホテルも、すでに記者たちに囲まれているだろう。明日から、マスコミに追われる日々が始まる。これが『喰われぬ地獄』ってやつか…。 でもそんな地獄、跳び越えてやる。得意のジャンプでー。何回転すればいいかしら。5回転?6回転? そしてこれからも、優勝していく。女子の大会でー。 腕、背中、腹ー。 シャワーに晒された肉体は、隆々とした筋肉に覆われている。 胸の膨らみも、乳房ではなく筋肉。 そして股間には、堂々と脈打つ陰茎がー。 バスローブを纏うと、希原(りく)はベッドに身を投げ、大の字に横たわった。 化け物の消息は、ようとして知れない。
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