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1616年(元和2年)4月末日ー。
豊前(現在の福岡県)小倉藩主・細川忠興のもとに、早馬の知らせが入った。
ー大御所御逝去ー
江戸幕府初代将軍で、隠居後も居城の駿府(現在の静岡県)において暗然たる権力を誇示してきた稀代の英雄・徳川家康、死去。享年75ー。
前年、大坂夏の陣において積年の宿敵・豊臣家を滅ぼし、遂に成った徳川の天下を見届けての最期であった。
「あいわかった」
一報に触れ、忠興は眉の根一つ動かさない。しかし、その内なる心情はー。
遂に、この時が来た。これを何年、待ちわびた事か…。
徳川の天下、未だ磐石ならず。家康英傑なれど、その子の二代将軍・江戸の秀忠、さにあらずー。
家康の死に伴い、天下は再び乱れる。これを平定する力は、秀忠にはない。
忠興、現在55才ー。
これまで信長、秀吉、家康といった天下人に臣従してきた。
そして今は、家康により小倉40万石に封じられている。されどー。
自分もかつては天下を目指した戦国大名。
その夢、未だ諦めきれず。
これが天下をうかがう、最後の好機。
この機を逃しておくべきかー。
こうして忠興は、公然と徳川に反旗を翻し、天下獲りに乗り出す。
その手始めが前年、大坂の陣中で家康に命じられ決まっていた、娘・咲姫と家康の10男・頼宣の、婚姻の破棄であった。
咲姫、この時15才。天下にその名を知られる、絶世の美女である。
大名家同士の婚姻は、家康により禁じられている。姻戚となって関係を強化し、結託して将軍家に謀反を起こすのを防ぐためだ。
忠興はこの娘を、有力大名家に嫁がせ天下の騒乱を狙うー。
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