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東京西部、神奈川との県境を流れる多摩川ー。
その支流の一つに、浅川というのがある。八王子を水源とし、日野で多摩川と合流する、全長30km程の一級河川だ。
下流の合流地点に程近い所に、白い吊り橋が架かっている。万願寺歩道橋といい、色と形と周囲の景色の美しさから、テレビドラマのロケ地としても度々使われる。
その名の通り歩行者専用の橋梁で、通称『ふれあい橋』ー。
ゴールデンウィークが明けた、5月中旬の事であった。そのふれあい橋下の河原に、少女が一人たたずむ。時刻は夜9時を回っていた。
少女はこの近くに住む中学1年生で、通っているのは地元の学校ではなく、都心の名門私立中学だ。難関の入試に合格し、この4月から1時間かけて電車通学している。
学区内の公立小学校では、成績は常にクラストップ。進学塾でも太鼓判を押されての合格であった。しかしー。
いざ通いだしてみると、授業についていけない。あまりにもレベルが高く、都心の小学校から来た周りの子たちとの差は歴然であった。
入学して1ヶ月、間もなく初めての1学期中間テストを迎える。それに向けて先日行われた小テストの結果が、今日返ってきた。
学年最下位である。そして先ほど、親宛てに担任の教師から電話がかかってきたのだ。
このまま本校に在籍していて、大丈夫ですかー?
電話を受けた母親が、少女を問い詰める。
「まったく、何やってるのよ!入学金、いくらかかったと思ってるの?!」
少女は家を飛び出し、この河原に来たのであった。
アタシには、もう無理。今の学校を辞めて、転校したい…。
でも転校するといっても、小学校の友達が通う地元の公立中学など、恥ずかしくて死んでも行けない…。
初夏のような気候であるが、涙に暮れる少女の周囲に人はいない。ただ、漆黒の闇が広がるだけである。
その時であった。
橋の下でたたずむ少女の足元を、水面から浮かび上がった物体が襲う。
「イヤッ!イヤ━━━━━ッ」
少女は両足を飲み込まれ、川の中に引きずり込まれる。
「あッ、あッ、あ………!」
最期は大人の女の声を上げ、全身を飲み込まれた。
雛川慶子は警視庁刑事部捜査一課第5係の女刑事である。
階級は巡査部長。年齢28歳。彼氏イナイ歴28年。自分では決してブスとは思っていない。むしろ可愛らしい顔立ちだ。が、男が近寄ってこないー。
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