2013年(平成25年)6月

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翌年、3月ー。 オザハルの姿は、成田空港にあった。今日、ここからニューヨークへ向けて飛び立つ。 公表した音声テープにより、須田は官房長官を辞任した。が、議員辞職はせずに、国会議員の座には留まったままである。結局、逮捕もされていない。 高原の売春斡旋に対し、須田は要望は述べたものの、結果として「買春」はしていない。しようとした相手は、あの化け物に喰われてしまったのだからー。 須田は官房長官辞任会見で、自分は高原に対し冗談を言っただけである、ただ、その冗談が少々度が過ぎたものであったから、責任を取って官房長官を辞任する、と述べた。そしてその責任とは、法的責任ではなく、あくまでも道義的責任である事を強調した。 矢部首相も、須田氏は法に触れるような事は一切しておらず、従って議員辞職の必要はまったくない、と述べた。「高原殺害」に対しては、どこにそんな証拠があるのか、確たる証拠もなくそのような事を言うのは名誉棄損だと、野党の追及に色をなして反論してみせた。 しかしこの二人、もし夏帆と滝沢が喰われていなかったら、今頃揃って、若い肢体に溺れていたであろう。従って両者とも、化け物のおかげで命拾いしたと言える。観客の中学生三人も含めた、少女たちの尊い命の犠牲の上にー。 こうして一連の事件は、児童買春で言い逃れの出来ないほどの証拠の上がった官僚5名の逮捕と、売春斡旋容疑の高原和哉の自殺をもって、幕引きとなったのである。 オザハルがニューヨーク行きを決めたのは、誰も自分の事を知らない状況に身を置いて、自分というものを見つめ直すためであった。
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