248年 9月

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若者は化け物の頭に飛び乗り、短刀を脳天に突き立てる。が、硬くて刺さらない。とんだ石頭だー。 しかし効果はあった。痛かったのであろう、化け物は途中まで飲み込んでいた2人の女を、思わず吐き出した。 若者は、ここで地上に振り落とされる。が、その瞬間、握られていた短刀は、化け物の喉笛に突き立てられていた。 まさに、月夜の決闘である。すでに若者は大刀を抜き、正眼の構えで化け物と対峙している。見る者すべてが惚れ惚れする、颯爽たる快男児であった。 若者がジリジリと間合いを詰める。ここで化け物は薄く笑うと、物凄い速さで地面を這い、叢に消えていったー。 短刀をあと一寸、深く刺せていれば、仕留められた…。若者を後悔の念が襲う。が、今は何とか救う事が出来た少女2人の手当てが先だ。 「大丈夫ですか?」 大刀を納めて若者が近寄ると、2人は頬を染め、額を地面にこすりつけるようにして礼を述べた。どうやら、怪我はないようだ。 すると茂みの中から、ぞろぞろと男たちが出てきた。彼らは、女王に仕える役人である。 「貴殿、何者か?」 最も位が高いと思われる役人が、若者の前に進み出て問うた。 「申し遅れました」 若者は片膝をつき、敵対の意思のない事を示す。 「私、東方の国の王に仕える官吏で、ユキヒコと申します。主からの書状を持参しました。貴国・ヒミコ女王陛下へのお目通りを叶えたくー」
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