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10年後、新右衛門は艱難辛苦の末、江戸に潜伏していた玄馬を発見、これを一撃のもとに討ち果たした。
現代の研究によれば、江戸時代の仇討ちの成功率は10%に満たなかったというから、新右衛門は幸運だったと言える。無論、彼自身の執念と剣の腕による所も大きいが。
国許に凱旋した新右衛門を待っていたのは、馬廻り役、言わば藩主の親衛隊長という名誉ある役職の拝命と、由紀との縁談であった。
帰国した新右衛門に、久蔵は詫びた。
「すまなかった、新右衛門。おぬしが仇討ちの旅に出る折、わしは由紀におぬしとの縁組を諦めるよう、言い含めておった。本懐を遂げて無事に帰ってくるか分からんおぬしよりも、他の男と一緒になった方が由紀の為と考えた親心からであった。しかし由紀は、おぬしは必ず仇敵を討ち果たし帰ってくる、自分はそれを何年でも待つと言い張ってのう。そして本当に待ちおった。我が娘ながら、誠にあっぱれと思う。どうじゃ新右衛門、由紀をもらってはくれまいか。10年前よりは、いささか年を取ったが」
年を取ったといっても、まだ25の女盛りである。
新右衛門は28で、当時の武家の縁組としてはやや遅いが、誰も文句のつけようのない二人であった。
こうして新右衛門と由紀は、夏の暑い日に祝言を挙げた。
仇討ちの本懐を遂げた男と、それを信じ待ち続けた女。
感銘を受けた藩主・吉貞公が媒酌人を買って出るという、破格の待遇の婚礼であった。
悲劇は、その新婚初夜に起きた。
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