2020年(令和2年)12月

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「で、私にどうしろと?」 単身乗り込んできた百合香に、矢部は言った。 内閣総理大臣と東京都知事、1対1(サシ)の会談である。 当然の事ながら両者、互いに相手を快く思っていない。特に矢部は7月、化け物殺処分の発表を出し抜かれた事を今だに()に持っている。 一方、百合香にとっても矢部は4年前、自身が都知事選に出馬した際、党としてまったく支援してくれなかったばかりか対立候補まで立てられた、許しがたい相手だ。 が、そこは政界の女狐(めぎつね)。そんな表情はおくびにも出さないー。 「国として、化け物被害の拡大に対して総理から『緊急事態宣言』を出して頂けません?もう東京都だけでは対応できませんので」 言葉は柔らかいが、要するにこう迫っているのだ。 自治体任せにしないで、国がなんとかしろー。 そんな百合香に、矢部はほくそ笑む。 「"世界の東京"の知事様が、何をおっしゃる。こちらに頼らずとも、そちらだけで十分、やっていけるでしょう」 東京都の予算額は、そこらの国の国家予算に匹敵する。 財政状況も良好で、たしかに金はある。しかしー。 「いえいえ。ここはやはり日本のトップである矢部総理にやって頂かないと。化け物禍はまさに国難ですから」 都のカネは、一円たりとも使わせないー。 すると、矢部は言った。 「わかりました。出しましょう、『緊急事態宣言』。明日にでも」 その顔に、こう書いてある。 そうだよ。この国のトップは俺だ。お前ではないー。 百合香は思う。「日本のトップは矢部総理ー」。コイツは自分に、これを言わせたかったのだ。 ホントに、わかりやすいヤツ…。 「ありがとうございます。では女性の外出を控えさせるために早速、全国の企業、学校などに自粛・休業要請をー」 「必要ないでしょう」 「はい?」 「国が示すのは、あくまでも基本方針です。化け物被害の状況は地域によって違いますから、ご自分の所がどういう対応をするのか、それは各都道府県の知事さんにお任せします。自粛、休業させた企業や商店への補償も、あなた方の判断でやってください。もちろん、自分のカネでー」 権限は与えるから、あとは勝手にやれ。国は金は出さん、と言っているのだ。
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