2020年(令和2年)12月

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「まったく、何をやってるのかしらねえ、矢部さんは」 都庁知事室ー。百合香は知事付きの女性秘書官と話をしている。 「とおっしゃいますと?」 「コンドームの無料配布よ。税金を使って、あんな無駄な事をしてー」 百合香は呆れ顔だ。 「無駄なんですか?」 「無駄よ。これ、警視庁の人から聞いたんだけどね」 執務机から離れ、ソファーに腰かけるー。 「18年前、警視庁の女性警察官が化け物に喰われた。夜、桜田門の本庁と目と鼻の先の路上でー」 「……」 「その人、捜査一課の刑事で、喰われる一週間前に当時都内で発生していた連続婦女暴行殺人事件の犯人を逮捕してるのよ」 百合香は神妙な顔つきになっている。 「でね、その逮捕の仕方というのが、DNA鑑定を拒否していた容疑者と自らセックスをして、その時コンドームに放出された精液を一連の事件の犯人のDNAと一致させた、っていうのよ」 「それはスゴい…」 秘書官は赤面した。 「その女刑事、その時どうやら処女だったみたいなんだけど、容疑者とセックスした事で化け物の捕食対象ではなくなった。にもかかわらず、一週間後に喰べられたー」 「どういう事でしょう」 「つまりね、化け物は処女を喰うって言われてるけど、実際はそうじゃない、ってコト。厳密に言うと、膣内に精液を直接放出された事のない女性を喰ってるのよ…。あのハゲにそんなコトがどうして分かるのか、皆目見当がつかないけど」 「じゃあ、コンドームの配布って…」 「まったくの無意味よ」 百合香は言い放った。 「ではその事、早く公表しないとー」 秘書官は居ても立ってもいられないといった表情で、百合香を見つめる。 「しないわよ、そんなのー」 「……?」 「そんな事を公表したって、またバカな男どもが騒ぎ出すだけよ。『だからセックスは(ナマ)でしないとダメなんだ!』なんてね」 その時、扉がノックされ、別の秘書官が駆け込んできたー。
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