2020年(令和2年)12月

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垣沢裕明、38才ー。 1995年に13才で男性アイドル専門の芸能事務所であるジョニーズ事務所に入所。 わずか半年後にドラマで主演を務めるなど、創業者で社長のジョニー仁志山(にしやま)に将来を嘱望される。 2002年9月、同期入所の岩井渚(いわいなぎさ)とアイドルデュオ『カッキー&渚』を結成し歌手デビュー。その後も俳優・バラエティ番組の仕事も並行して続ける。 2005年にはNHKの大河ドラマ『九郎義経』 の主役・源義経に当時としては最年少で抜擢され、この演技により第14回櫛田(くしだ)賞を受賞。 2018年12月をもって芸能活動から引退し、以後はジョニーズ事務所のスタッフとして後進の指導に専念することを公表。 2019年9月27日付の新役員人事にて同社副社長に就任することが発表された。 百合香は第3次鯉住(こいずみ)内閣で環境大臣を務めていた2005年、地球温暖化対策による夏の軽装化キャンペーン「クール・ビズ」の宣伝キャラクターに、お気に入りだった垣沢を起用。 その後も事あるごとに声をかけ、二人の付き合いは15年に及ぶ。 「ごめんなさいね、突然呼び出して」 都内某所にて、百合香は垣沢と密会ー。 「いえ」 垣沢は、言葉少なに答える。 正直、このオバサンは苦手だ。 今日もできれば来たくなかったし、それほど暇な身ではない。 しかし断れば、のちのち面倒…。入っていた会合をキャンセルして、この場に来た垣沢であった。 「まずは副社長就任、おめでとう」 百合香はグラスを差し出す。ここは赤坂の高級クラブの個室である。 「ありがとうございます」 めでたくなどない。間もなくグループとしての活動を休止する『吹雪』の後継問題に加え先般の"田越(たごし)騒動"の後処理等、問題は山積している。 昨年亡くなった先代の遺言で仕方なく引き受けた副社長職だが、正直やりたくなかった。 そして現在の「化け物問題」。予定していたコンサートやイベントのほとんどが自粛要請を受け、中止・延期されている。 これも垣沢にとって、頭の痛い問題であったー。 「ごめんなさいね。いろいろ無理言って、自粛に協力してもらって」 「いえ、仕方ありません」 ジョニーズのイベントには、化け物の捕食対象がドッと押し寄せる。自粛は当然だ。 「でもね、もう再開してもらって構わないわよ、コンサート」 百合香が妖しく微笑むー。 「……はい?」 「今まで協力してくれたお礼に、都として無料で会場を提供するわ。どうかしら、新国立競技場でー」
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