1984年(昭和59年)8月

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8月のお盆の時期、私たちの村では毎年、夏祭りが行われます。 役場前の広場に矢倉が組まれ盆踊り会場となり、露店も数多く軒を連ねます。 なにぶん普段はこれといった娯楽のない村ですので、多くの人が集まり、毎年それなりの盛り上がりをみせる祭りでした。 私たちが高校2年生の年の祭りの日の事です。 同級生の多くが集まり、露店で買ったジュースやたこ焼きを手に談笑します。 中には浴衣姿の子もいますが、私と涼子は気恥ずかしさもあり、去年から普段着で来ています。もちろん、少しおしゃれをしてー。 辺りが暗くなり始めた頃でした。 盆踊り会場で、今までとは異質な喧騒が起きているのを、少し離れた所にいる私たちは感じました。 「キャ━━━━━ッ!!」 「何や、コイツは!」 「逃げろ━━━っ!」 え、何だろう…。騒ぎはだんだん大きくなり、こちらに近づいてきます。 そして━。 私たちの目に入ったのは、巨大なハゲ頭に首から下は真っ黒い鱗に覆われた、化け物でした。 人喰い大蛇が、村の夏祭りを襲ったのです。 人間の処女ばかりを喰らうという、化け物が…。 そして大蛇は、私と涼子に向かって突進して来ているようです。 まるで狙いが、最初から私たちであるかのように…。 蛇に睨まれた蛙とでも言うのでしょうか。私は恐怖のあまり、まったく動けません。隣にいる涼子も、同じでした。 化け物が目の前に迫り、大きな口を開けます。喰べられる━! 「いやぁぁぁぁぁ!」 その時でした。 バチッという音とともに化け物が一瞬、ひるみました。そして何故か、呆然とした表情を浮かべているように見えます。 持ち上げた鎌首の下に、野球のボール大の石が転がっていました。 振り返ると、そこにTシャツ姿の栄治が立っています。 どうやら彼が、化け物に石を投げてぶつけたようでした。 私たちを助けるためにー。
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