1984年(昭和59年)8月

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今にして思います。 あのまま、何も起こらなければどんなに幸せだっただろうと…。 でも、やはりあの化け物が私たちを放っておくなど、あり得ませんでした。 「ねえ、あれ…」 中に入って10分も経たぬうちに、教室の窓から園庭を見ていた涼子が言いました。 もうすっかり陽は落ちていますが、周囲の外灯などで完全に真っ暗、という訳ではありません。 私と栄治も、窓の外に目を凝らします。 「あ…」 園庭を、あのおぞましい化け物が蠢いていました。 中に私たちがいる事に気づいているのかどうかは分かりませんが、この園舎に侵入してくるのは、時間の問題のように思われます。 「もう、助かる手段は一つしかないわね…」 涼子が呟くように言いました。 「ねえ栄治、アタシたちとしてよ。そうすれば処女じゃなくなって、来ても喰われないから」 涼子の言葉に私は呆然としましたが、でもここに逃げ込んだ時から、そういう事になるのではという予感、期待のようなものがあったのは、否定できません。 今まで誰にも、涼子にすら言っていませんでしたが、ご多分に漏れず私も、栄治の事が好きでした。ずっと前から…。 涼子が私の気持ちに気づいていたかどうかは、今となっては分かりません。 でもきっと、気づいていたでしょう。私だって涼子の栄治に対する淡い恋心に、気づいていたくらいですから…。 「でも俺だってした事ないし、よく分かんねえよ。どうやるのかー」 栄治も、初めて…。 「そんなのアタシたちだって分からないわよ。でも、やるしかないじゃない。場所は教えるから…。ね、知美(ともみ)ー」 私の方を向いて、涼子が言いました。 場所って、入れる所ってこと…? 私はうつむきました。顔は真っ赤になっていたと思います。 「わかった。やるよ」 意を決したように、栄治が言いました。 私の胸は破裂しそうに高まります。 大好きな栄治と、初体験ー。 「じゃあ、どっちと先にすればいい?」
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