2002年(平成14年)6月

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「谷村…さん、あなた、ここで一体、何をしているんですか?」 懐中電灯を左手に持ち替えながら、慶子は尋ねる。拳銃は、いつでも抜けるー。 「…誰かと思えば、昼間の刑事さんじゃないですか。あなたこそ、何故こんな所に…。そうか、マンションから俺を尾けてきたか。ご苦労な事だー」 懐中電灯の明かりの中で、谷村は巨体を揺らして笑った。昼間聞いた、クックックという気味の悪い笑い声だ。 「今、ここから若い女性が出てきたけど…、あなた、何をしたの?」 一定の距離を保ちながら、慶子は問い詰める。 「フッ、アンタが期待してるような事は、何もしてないよ…。化け物が出たーって騒ぎを聞いて、そのあと何発か銃声がして、怖くなって、この中に駆け込んだんだよ。そしたら、あの女がいた。俺を見て怖くなったんだろう。あわてて逃げて行ったよー」 たしかにあの女性、暴行を受けたようには見えなかった。概ね、この男の言う通りなのだろう。ただ、恐ろしくて逃げ出すような言動を、谷村はしたと思われる。が、それもあくまで、慶子の想像だ。 「そもそも、谷村さんー。あなた、こんな夜中に、この閉園している公園に、何をしに来たんですか?」 「何って…、別に。ただの散歩ですよ。まさか刑事さん、公園への不法侵入なんて容疑で、俺を逮捕するつもりじゃないだろうな。俺を捕まえるなら、今ここにいる何百人という人間も、捕まえてもらいますよ」 谷村はうそぶく。やはりこの男、ボロは出さない。どうすればいいー。慶子は必死に考える。 あの女性には悪いが、現行犯で捕らえたかったー。警察にここまで疑われ、監視されている事がわかった以上、いかに性異常者とはいえ谷村は、もう二度と女を襲わないかもしれない。 そうなると、コイツを捕らえるチャンスは永久になくなる。やはり逮捕は、今夜しかない。が、別件では駄目だ。逃げられる。 あくまでも、連続婦女暴行殺人容疑に足る証拠を手に入れ、それを突きつけて、逮捕しなければならない。しかし、そんなものが、どこに…。 その時である。ドーンという大音響とともに、建物が大きく揺れた。地震かー? そして、その大きな音と揺れは、2発、3発と続く。 谷村は窓から外を見る。慶子も窓に近づくー。 「うわっ!」 谷村が驚愕の声を上げる。慶子は体が凍りついた。 そこには建物に体当たりを繰り返す、恐るべき人喰い化け物の姿があったー。
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