1999年(平成11年)10月

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往年の銀幕の大女優と、かつてテレビドラマで天才子役と騒がれた少女の、芸能界生き残りをかけた競演であったー。 再来年の正月映画『禁断(きんだん)真実(しんじつ)』制作発表会。会場には多数のマスコミ関係者やスポンサー企業担当者が詰めかけていた。 主演は、今をときめく人気女優・神崎麗奈(かんざきれいな)(24)。相手役は注目若手俳優の鮫島健斗(さめじまけんと)(26)。 2人の役どころは大手新聞社の社会部記者で恋人同士。保険金殺人の疑惑を持たれた母娘を追う、というものだ。 そして、作品の鍵を握るこの母娘役を演じるのが、澤村美枝子(さわむらみえこ)(58)と朝井真実(あさいまみ)(15)であった。 美枝子は日本映画全盛期の頃の気品を今も漂わせる、まさに大女優である。 数多くの映画スターの相手役を務め一時代を築いたが、映画からテレビという時代の変遷を頑なに拒み、映画女優という肩書きにこだわった。 若い頃はそれでよかったが、年齢を重ねていくにつれ、仕事は減っていく。今回は、実に5年ぶりの映画出演であった。 しかし、美枝子が今回演じる役は、40才という設定である。いかに若々しいとはいえ、還暦間近の美枝子が演じるのは、やはり無理があるのではないかー。配給元を始め、スポンサー企業からもそんな意見が出た。 こうした声を一蹴したのが、今回メガホンを取る巨匠・黒岩淳(くろいわあつし)監督(72)であった。 「澤村美枝子は映画女優である。20才くらい若い役を演じる事など、何の問題もない。この役は美枝子しかいない。彼女を起用しないのなら、自分は降板させてもらう」 『世界のクロイワ』にここまで言われたら、従うしかない。そして黒岩がこだわった配役が、もう一つあった。 それが美枝子の娘の役で、黒岩が抜擢したのが、僅か1才から芸能活動を始め、天才子役の名を欲しいままにしてきた、朝井真実であったー。
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