1999年(平成11年)10月

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透き通った、清楚な声であった。それでいて気品と威厳に満ちた、聞く者をひれ伏させるような響きであったー。 人々の視線、カメラのフラッシュ、シャッター音。すべてが澤村美枝子に注がれた。 「澤村さん、それはどういう事ですか?」 別の記者が尋ねる。 「わたくしが黒岩監督にお願いをして、わたくしの娘の役を、朝井真実さんにして頂いたんです」 美枝子は優雅な笑みをたたえて、先程よりもやや柔らかい口調で答えた。 真実は呆然と、自分とは反対側の雛壇の美枝子を見つめる。当然、美枝子と面識はない。まったくの寝耳に水、であったー。 「あのう…」 会見が終わり、舞台裏で主演の神崎麗奈と談笑している美枝子に、真実は遠慮がちに話しかけた。 2人は露出度の高い、きらびやかなドレス姿である。スタイル、肌の白さ、きめ細かさー。60に迫る美枝子はすべてにおいて、24才の麗奈に優るとも劣らない。 一方の真実は、役さながらのセーラー服姿である。 「何かしら?」 真実と親しく接しようとする意思は、美枝子からはまったく感じられない。 大女優のオーラに圧倒されながらも、真実はなんとか踏ん張って、言ったー。 「先程は、ありがとうございました」 それに対しては何も答えずに、美枝子は、真実を一瞥する。 「あなた、さっきのあれは何?」 「はい?」 「うつむいたり、ボーッとしたり」 「いえ、あの…」 「わたくしたち女優は、役柄を演じている時だけが女優、というわけではないのよ。常に人様から見られているー。その事を、忘れてはいけません」
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