1999年(平成11年)10月

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撮影が始まった。 映画の撮影はテレビに比べて、すべてが大掛かりである。 また、一つのシーンの撮影に、物凄く時間をかける。特に黒岩は、その傾向が強い監督であった。 そして、非常にこだわりが強い。先日などは、雲の形が気に入らない、と言って、3日間、撮影をしなかったほどである。 従って、演者の待ち時間というのは、非常に長くなる。丸一日拘束されて、結局出番はなかったというのも、ザラであった。 母娘役の美枝子と真実は共演シーンが多く、必然的に待ち時間も重なる。 話す機会が多くなり、徐々にではあるが、関係も打ち解けてきた。 大女優・澤村美枝子の人となりというものが、真実にも少しずつ、分かってきたのである。 真冬のロケの事であった。 それは、夫殺しの嫌疑をかけられた美枝子演じる母が、娘の真実と吹雪の海岸にたたずみ、逃亡を決意するという、物語前半のヤマ場ともいえるシーンの撮影であった。 重要な場面であるし、悪天候でもあるので、真実は美枝子に迷惑をかけてはいけないと、セリフや立ち居振舞いを完璧に頭に入れて、撮影に臨んだ。 美枝子は当然の事、真実の演技も一発OK。胸を撫で下ろした真実であったが、黒岩の怒号が響いているー。
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