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「アタシも行きます!」
真実は、美枝子の後ろ姿を追った。
日没タイムオーバーかと思われた3時間後、トンビがウミネコを捕らえた瞬間、そこにいる全員の歓声が、ロケ現場を包んだ。
撮った映像を、黒岩が見る。そしてー。
「よーし、OK!!」
皆で、抱き合って喜んだ。美枝子が帰らずに撮影を見守った事で生まれた、現場の一体感であった。
真実は、感動で心が震えた。物心ついた時から芸能活動をしてきて、こんな気持ちになるのは、初めてだったー。
「朝井さん、あなたもよく頑張りましたね」
美枝子はこう言って、真実を抱きしめてくれた。
真実は、涙が止まらない。大女優の胸で、泣いたー。
撮影現場で、美枝子は絶対に座らない。
自分の出番は当然の事、他の役者の撮影時も、座らずに立っている。もちろん、椅子は用意されているのだが、その姿勢はスタジオでもロケでも、一貫していた。
これは、映画界では有名な話らしい。
座るのは、食事を取る時くらいか。美枝子曰く、自分の出番でなくても、演者、スタッフ誰か一人でも仕事をしている限り、座る気になれないのだという。
そういえば、あの吹雪の海岸ロケの時も、座らないのはもちろん、寒さ対策で用意されたドラム缶の火鉢にも、当たっていなかった。
もちろん、こうした事を美枝子が周りの役者たちに強制する事は、一切ない。
「わたくしが好きでしている事ですから、皆さんはどうぞ、お掛けになって」
美枝子はこう言うが、座れる訳がない。
こうした美枝子のストイックな姿勢は、スタッフや裏方からは敬愛されるが、役者仲間からは敬遠される。結果、美枝子の周りには人がいなくなる。
彼女が、孤高の女優と言われる所以であったー。
それでも真実は、美枝子のそばを離れたいとは思わなかった。
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