1999年(平成11年)10月

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ある日の事であった。 その日は都内の撮影所での撮りで、主演の神崎麗奈の他、主要キャストの多くがスタジオ入りしている。もちろん、美枝子の姿もあった。 真実は、午後からの入りとなる。 真実はまだ中学生である。 「出来る限り、学校には行くようにしなさい」 美枝子のアドバイスに従い、真実は午前中、学校で授業を受けてから来る。 そこに、派手な服装に厚化粧の中年女が、若い男を伴って現れた。 「ハーイ、みなさん、お疲れ様でーす」 女は撮影所の中を、スタッフに声をかけながら、我が物顔で闊歩している。 「おい、誰だあの女ー」 「さあ…」 皆が首を傾げる中、ある俳優のマネージャーが気づいた。 「あっ、あれはマミママだー」 真実の母親の、トシ子であったー。 真実が子役として全盛だった頃、マネージャーとして常に撮影現場に現れ、制作サイドに様々な口出しをして疎まれた女である。 真実が干される原因を作った母親であった。 テレビ業界からは言わば「出入り禁止」を言い渡されたこの女が、初めて映画の撮影所に姿を見せたのである。 「あら、おかしいわね。マミがいないわ…。ねえ、どなたか、ウチの朝井真実を知りませーん?!」 真実の仕事がまったくなくなった頃、トシ子は現場で知り合った若い俳優と共に姿を消した。真実の父親とは、とうに別れているー。 天涯孤独となった真実を見かね、今の芸能事務所の女社長が引き取って、自宅に住まわせているのであった。 騒ぎは楽屋の、美枝子の耳に入ったー。
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