1995年(平成7年)7月

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もうすぐ36才。 大人になった今でも、私は忘れられずにいる。遠い少年の日の、あの出来事をー。 「昨日ウチの夜ご飯、お赤飯だったんだ」 道すがら、明彦(あきひこ)が言った。小学校までの1kmほどの、徒歩での通学途中である。 2学年下の、3年生。同じ町内に住む、いわゆる幼馴染み、というやつだ。 「ふーん、何かおめでたい事でもあったの?」 赤飯はめでたい時に食べるものー。今日からの新学年で5年になったばかりの僕にも、それくらいの知識はある。 「お姉ちゃんがセーリになったんだって」 5mほど先、女友達と一緒に歩く姉の香澄(かすみ)を見つめながら、明彦は答える。 香澄と僕は同い年だ。幼稚園から、ずっと一緒。 スラッとした体型に、長い髪ー。僕は去年、コイツに身長を抜かれた。最近は特に、大人びてきたような気がする。 「セーリ?何だそれ」 僕はすっとんきょうに尋ねた。 「知らね」 明彦はぶっきらぼうに答える。 セーリが生理で、香澄が初潮を迎えて昨夜お祝いをしていたという事を僕が知るのは、しばらく先の事である。 明彦も意味もわからずに、母親が父親に言った言葉を、そのまま口にしたのだろう。 「よー、真人(まさと)!おはよう」 後ろから走ってきた悪ガキどもに、僕は飛びつかれた。同学年の友達だ。 「じゃあな、明彦ー」 僕はそいつらと一緒に駆けて行く。 追い抜いた香澄を、何となく振り返って見た。 香澄は友達との話に夢中で、僕ら悪ガキのことなど眼中にない、といった素振りだったー。 学校に着くと、入り口の掲示板に人だかりができている。 3年生と5年生はクラス替えがあり、その名簿が貼り出されているのだ。 僕らは掲示板へ走るー。 ウチの小学校は各学年3クラスだ。何組で、誰と同じクラスになるんだろう…。 期待と不安が織り交ざった気持ちで、掲示板を見るー。 「山崎真人」 僕の名前は、5年2組にあった。 一緒に見ていた悪ガキ仲間では、浩司(こうじ)と同じクラスだ。 僕は浩司と抱き合って、喜びを分かち合う。そしてー。 「堀川香澄」 この名も、2組の中にあった。 小学校で同じクラスになるのは、初めてだったー。
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