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若葉のようにひそやかに傷つきやすいぼくは、それでも泣く泣く学校に行くしかなかった。無力だった。
学校の帰りはお爺ちゃんの軽トラックに乗れないから、とぼとぼと田舎の道を歩くしかない。
ここは山に囲まれているから、太陽が沈むのがすごく早く感じる。
すでに夜がそばまで忍びより、西の空はこんがり色をした夕焼けの赤みを帯びていた。
夜の前には木の葉や花はみんな、やさしく燃えあがるように見えるものだ。
しばらく歩いて、木がこんもりした鎮守(ちんじゅ)の森まで来たときだ。
暮れなずむ山の風景を背に、それと同じ輝きをした動物がヒョッコリと現れた。
「き、きみはだれなの?」
ぼくはおずおずとたずねた。
その動物は太陽が沈む夕焼け色をしていて、夜の星空みたいにきらめく目をパチクリとしていた。
その尻尾ときたらトカゲのぴっきんとしたやつじゃなくて、お布団の綿をかき集めたみたいにフワフワしていたんだよ。
「ぼくはシロ。野狐(やこ)のシロだよ」
目と目のあいだの額の毛が白いから、シロという名前なんだね。
「野狐……?」
「キツネの妖怪だよ」
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