8人が本棚に入れています
本棚に追加
ぼくは妖怪のシロのあとについて、緑の匂いがふかい鎮守の森に入る。
薄らいでいく夕日のなか、しばらく森をかきわけて行くと、見上げるばかりに大きなカヤの木が見えた。
それは夕焼けを隠すばかりに巨大で、緑の葉を空いちめんに広げていた。
その岩のような表面をした幹といったら、水族館で見たクジラよりも大きかったんだ。
「ヒカル、これが森の本屋さんだよ」
「だってこれ、大きな木じゃないか」
「この長老の木は、すべての葉っぱが本になっているんだよ」
シロがそう説明しながら、苔むした瘤だらけの木に生えた葉っぱをむしった。
そしてまるで何かの歌を口ずさむみたいに、その目を手もとの緑に走らせる。
「これは冬が来るのを教えてくれる風を読む本だよ」
ぼくには緑の葉っぱにしか見えないけど、どうやらシロには何が書いてあるのかわかるらしい。
「これは悪い物を食べたとき、薬になる草を書いた本だね」
「街の本屋さんみたいに、人が死ぬ面白い本とかないの?」
「そんな残酷なのないよ。人間は他人が死ぬのが面白いのかい?」
最初のコメントを投稿しよう!