花子さん

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夏休み前の図書室には、生徒は居なく先生が一人カウンターに座っているだけだった。 「先生、一人ですか?」 「藤堂、今日は当番じゃないだろ?」 「はい、本を借りに来たんですよ。」 図書委員として、週に二回は図書室に来ている。そのときに借りたい本は、借りてしまうので当番以外ではそんなに図書室に来ることはない。 「当番の子はどうしたんですか?」 「風邪だってさ。もし、藤堂が大丈夫そうなら当番代わりにやっていってくれないか?」 少し悩んでいると、なんとか当番をやって欲しい先生から提案が追加された。 「クーラーも付けていいぞ。涼しい部屋で好きな本を下校時刻まで読み放題!藤堂には悪くない提案じゃないか?」 「確かに…甘い誘惑ですね。わかりました、やっておきますよ。」 先生は、『すまない』と言ってからクーラーの電源を入れて図書室を出ていった。 「さてと、どれにしようかなぁ~。」 人がいない図書室の静かさはとても好き。 図書室の本棚を回りながら、本を物色する。 『日本の怪談』 『夏の百物語』 『学校の七不思議』 やっぱり、ここは『七不思議』だな。 『学校の七不思議』を手に取り、カウンターの椅子に座り読み始める。本を全部読むのではなく、トイレの花子さんのページを開く。 おかっぱに、赤いスカート。 女子トイレの一番奥の扉を三回叩いて『花子さん、遊びましょ』って声かけると花子さんの声が中から聞こえて来る。 「なんで、おかっぱなんだろう?」 何度か読んだ本だから、どこか確認作業のように読み返してまた本棚へと戻す。 「あ、あれの続きは…。」 最近お気に入りで読んでいる恋愛小説の続きを取りに本棚へと向かうとそこにあるはずの本がない。 「あれ、借りられてる!」
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