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 その言葉に、私は驚いたと同時に自分の耳を疑った。どこか身の上話を隠す傾向にある彼が、私の求める以上の回答を用意したのだ。この話から発展させて何か聞き出せやしないかと考えた私は会話を引き延ばすことに決める。  「そう、お兄ちゃんになりたいのね。でも、どうしてそう思ったの?」  「……わからない」  「分からないなら、私と一緒に考えてみましょうよ」  彼はコクッと小さく縦に首を折った。彼の挙措を余すことなく見逃さないよう目視しながら質問を続ける。弟や妹という存在にどういった印象を持つのかを訊ねれば、相変わらず視線の泳ぐ彼は『可愛い』『守ってあげたい』と即座に言葉を並べた。初めから答えを用意していた様にさえ思える返答の早さから、彼は普段から弟や妹の存在を望んでいたと窺える。
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