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ただ、日々の積み重ねが人格形成を成すとすれば、この『始まりの性格』は始まりに過ぎずいつか培ってきた経験が新たなる人格を形作るのだろう。それはつまり、何にだってなれることを意味する。  どんよりとした白、それが私だとすれば、記憶を持たぬその少年は真白であろう。何も手を加えられていない白一色のキャンバスにはどんな絵だって描ける。象にインクの染みた筆を持たせ、キャンバスにそれを押し当てさせる。そして出来上がるのがインクをまばらに乗せたキャンバスだ。そこに芸術的価値を見出し高値で売買されるのだから、芸術を理解しようとも思えず、嫉妬心を大いに含有した眼差しを向けて嘲笑うしか術を知らない。私が描く渾身の一作にきっと、0以外の値段を付けてくれるのは夫ただ一人であろう。生きていれば自ずと、真っ白だったキャンバスには数々の色彩が生まれ出ずる。そしてその価値を鑑定してみれば自己の印象など何のその、予想通りでもその逆を行くわけでもなく、予想値と比べ何一つ掴み所のない結果が導き出される。
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