夢見草は春を愁えて、天使悪魔の夢を見る

4.

何が突然の別れを強要させるのかを訪ねても、「だって……ノックしてから入りなさいって毎回言うから。だから、今日こそは忘れずにできたんだ。ノックして入れるようになったんだから、卒業でしょ」と彼は言う。痛々しいまでの嘘八百、あの出会いの日に泣いている私を見たが為にある事を痛感した彼は、私に心配させまいと下手糞ながらに嘘を付く。泣きたいくせに泣かないこのちっぽけな少年が、ガラス細工の様に脆く繊細なものに見えてしまった。「バイバイ」の一言を置き土産に急く足取りで立ち去る彼の姿を、あの日の時間に慌てる彼自身の面影と重ねる。背中に届ける声を持たぬまま死角に隠れるまで彼を見送り、故に彼も振り返らない。私はこの瞬間、これまで彼に対し取り返しのつかない仕打ちをしてきたと悟った。