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「私はあなたを必要としているのよ」──彼と出会ったあの日の去り際に掛けた言葉は一つの仮説から導かれる救いの手であり、同時に私自身をも救うという何とも偽善的な狙いがあった。お互いの思惑が合致するのだからと自分に言い聞かせ、鎮痛剤の様に罪悪感を紛らわす。あの日、彼の悩みを探るべく質疑を繰り返す私は一つの仮説を立てる。両親による厳しい躾の下、抑圧された生活環境の中で育てられた。または、虐待を受けていた。故に彼は誉められることを知らない、後付けであるが決して頭は悪くなかった。『どうして上手にできたのに誉めてくれないの?』と形ある物を望むでもなく、目には見えない感情を求めた。誉められたい、頼りにされたいと思う心が弟や妹の存在を渇望する。だから、私は彼の望む一つの存在を演じることに決めたのだ。
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