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5.

 真っ暗闇の中、足の下から私を呼ぶ声が聞こえた。「どうしてあの子を利用したの?」と姿形のない男の子が口角を吊り上げ、私を卑しめる。すると、前方に蝋燭の火が一つ、そして二つ、また三つと隣り合うものが伝染する様にして次々に灯っていく。立ち並ぶ蝋燭は曲線を描き、更にその数が増すことで曲線の全貌を知る。円を描いた炎はゆらゆらと、大小を繰り返す非線形のリズムは普く同調していた。鼻孔をくすぐるのは蝋を溶かした様に焦がした臭い、絶えず変化する蝋燭の火はそのリズムを崩すことなく橙色の光のみを強め、奇妙なサークルの中心に立つ誰かを照らすのだった。私そっくりの、けれど違和感を覚えるそれは精巧に作られた蝋人形、動くはずがないと知りながら動き出すのを今か今かと恐怖に怯えながら待ち構える。口元に注目すれば、焦げ付いた塗料は黒く、溶け出した蝋は涎の様に伝う。そして次の瞬間、原型を失った口から搾り取られる様に掠れた声が空気を振るわせた。
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